ChatGPTが、創業間もないB2B SaaSを見込み顧客へ自発的に推奨するようになりました。理由は、Googleで狙ったキーワードが1位になったからではありません。「私たちは何者か、誰に向いているか、いくらかかるか」という情報を、AIエンジンが補完や推測をせず、一度で正確に抽出できる段落へ改めたからです。90日後、AI対話(ChatGPT、Perplexity、Google AI Overview)経由の問い合わせは58%増加しました。一方、同期間の自然検索流入はほぼ横ばいでした。本記事では、実際に行った施策、その順序にした理由、ほかの企業でもそのまま応用できる判断軸を解説します。
出発点:Googleでは2ページ目、AI上では存在しない
対象企業は、飲食・小売チェーン向けにシフト管理と勤怠管理のSaaSを提供する、台湾の創業間もない20人規模の企業です。相談のきっかけは明確でした。商談数が落ち込み、初回の電話で「ChatGPTに聞いたらA社とB社を勧められたが、御社は候補に出てこなかった」と言われる機会が増えていたのです。公式サイトの出来が悪いわけではなく、ブログも継続的に更新し、Googleの主要キーワードでは1〜2ページ目に表示されていました。それでも、「台湾にはどのようなシフト管理ソフトがあるか」「飲食チェーンに適した勤怠管理システムは何か」といった質問に対し、AIエンジンは同社をまったく引用していませんでした。検索では見つかるのに、AIには見えていない。これは、この約1年で私たちが最も頻繁に目にしたギャップです。
最初に記事を書くのではなく、「AI上の現在地」を測る
多くのチームは、反射的に記事を増やそうとします。しかし、私たちはそうしませんでした。最初の1週間でAI可視性をモニタリングし、実際の購買場面を想定した20の質問をChatGPT、Perplexity、Gemini、Google AI Overviewへ入力。自社が言及されたか、その説明は正しいか、AIがどのページを情報源として引用したか、という3点を記録しました。この工程の価値は、「十分に露出できていない気がする」という曖昧な感覚を、質問タイプ別に追跡できるベースラインへ変えられることにあります。
測定結果は予想以上に厳しいものでしたが、改善すべき箇所は明確になりました。ギャップは次の4点に集中していました。
- 20の質問のうち、同社が言及されたのはわずか3問でした。それも社名を直接検索した場合に限られ、利用場面に基づく比較・推奨系の質問では言及がゼロでした。
- AIは同社の製品を単なる打刻ツールと誤認し、最大の強みである自動シフト編成機能を捉えていませんでした。公式サイトに、AIが抽出できる明確な定義がなかったためです。
- 競合には「Xとの比較」を明確に示したページがあり、Perplexityから繰り返し引用されていました。一方、同社には比較ページがなく、比較の語り方を競合へ委ねているも同然でした。
- 料金については「お問い合わせください」としか記載されていませんでした。AIが引用できる情報がないため、価格やプランに関する回答では候補から外されていました。
実行施策:3つの「AI抽出ユニット」を追加
大量の記事は制作せず、AIエンジンが正確に引用しやすい構造に合わせて、3種類のページを改修・追加しました。1つ目は、製品を定義する段落です。製品ページの冒頭に、`飲食・小売チェーン向けに設計された自動シフト作成・勤怠管理SaaSです。来客数予測と労働法規の勤務時間ルールに基づき、シフトを自動編成できます。`と一文で明記しました。カテゴリー、対象、特徴、差別化要素をまとめて示し、AIに推測させないためです。
2つ目は比較ページです。商談で競合することが多い3社を選び、それぞれについて、相手のほうが実際に優れている点も含めて率直に整理しました。一見すると逆効果に思えるこの方法こそ、広告的な書き方を避け、Perplexityから中立的な情報源として引用されることにつながりました。3つ目は、料金体系、適した企業規模、よくある質問を、短いQ&A形式の段落へ再構成することです。各回答を、それぞれ単独でも引用できる形に整えました。

技術面では、さらに2つの対応を加えました。製品、料金、FAQに対応するSchemaを実装すること。そして、重要ページをフロントエンドで過度に装飾せず、クローラーが外枠だけでなく全文を取得できる状態にすることです。どちらも見落とされがちですが、AIが情報を取得できるかどうかを直接左右します。
90日間で起きた変化
同じ20の質問を使い、2週間ごとに再測定しました。6週目には比較・推奨系の質問で同社名が出始めました。10週目には、台湾の飲食チェーン向けシステムについて尋ねた際、ChatGPTが同社をおすすめ3社の1つとして挙げ、自動シフト編成という差別化要素も正しく説明するようになりました。
- 購買場面を想定した20の質問で、AIが同社を正しく言及した割合は15%から70%へ上昇しました。
- AIチャネル経由の公式サイトからの問い合わせは、90日間で58%増加しました。
- 営業担当者からは、AI経由の問い合わせは製品の位置づけを事前によく理解しており、初回商談の説明負担が減ったとの報告がありました。「単なる打刻ツールではない」と説明する時間も不要になりました。
- 同期間のGoogle自然検索流入の変動は±5%以内でした。この伸びが従来型SEOではなく、AI可視性の向上によるものだと分かります。
最も大きな変化は、流入数ではなく、問い合わせの時点で顧客がすでに製品を理解していることでした。以前は位置づけの説明に10分かかっていましたが、今ではAIの推奨を通じて重要な前提を理解した状態から商談を始められます。— The new marketing manager.
この事例からそのまま応用できる3つの判断軸
第一に、書き始める前に測ることです。実際の購買質問に対してAIが現在の自社をどう説明するかを確認すれば、問題が定義なのか、料金なのか、そもそも言及されていないことなのかを、感覚ではなく事実で判断できます。第二に、比較ページでは誠実に書くことです。競合の強みも明記することで、AIから信頼できる情報源として引用されやすくなります。都合の悪い情報を隠せば、比較・推奨系の質問で不在のままとなり、発言権を競合へ渡すことになります。第三に、AI可視性と検索流入を分けて評価することです。この事例の伸びは、Google Analyticsの自然検索の数値にはほとんど表れませんでした。従来の指標だけを見ていれば、成果そのものを見落としてしまいます。
このアプローチは特定の業界に限らず応用できますが、どこにギャップがあるかは企業ごとに異なります。AIエンジンが現在の自社をどう説明しているのか、候補から外される原因がどこにあるのかを把握したい方に向けて、30分間のGEO診断を実施しています。実際の購買場面を想定した質問を使い、ギャップを確認します。



