Geminiに引用されるかどうかを左右するのは、公式サイトの見栄えではありません。ブランドが輪郭の明確な「実在するエンティティ」として認識されているかどうかです。今回支援したB2B SaaS企業は、競合より充実した公式サイトを持っていました。それでもGeminiに同種のサービスを尋ねると、回答に挙がるのは欧米の競合3社ばかりで、同社の名前は一度も出てきませんでした。そこで取り組んだのは、公式サイトの文章や参考情報の書き直しではなく、WikipediaとWikidataを軸に情報構造を補い、各所に散在する公式データを1つのエンティティへ統合することです。3か月後、同じ質問をすると、Geminiの回答に同社名とリンクが安定して含まれるようになりました。
Geminiの引用ロジックがChatGPTと異なる理由
Geminiの回答はGoogleのグラウンディングに基づきます。必要に応じてGoogle検索の情報を参照し、「その企業は何者なのか」を判断する際にはGoogleのナレッジグラフを重視します。ナレッジグラフを構成するエンティティ情報の多くは、WikipediaやWikidataに由来します。つまり、Googleのナレッジグラフに自社が存在しない、あるいは別の企業と混同されている状態では、Geminiから継続的かつ正確に引用されるのは困難です。ChatGPTが学習済みの言語情報や、その時点で取得したWeb上のテキストを比較的重視するのに対し、Geminiにはエンティティを重視する傾向が明確にあります。同じ記事でも、両者の扱いが異なるのはこのためです。
事例の背景:公式サイトは充実しているのに、AIでは存在感がない
クライアントは、台湾にチームを置く創業約4年のB2B向けAPIモニタリング/オブザーバビリティツール企業です。アジア太平洋市場を主戦場とし、数十社の法人顧客を抱えていました。相談時の状況は典型的でした。ブログは継続的に更新され、公式サイトの導入事例も明確で、コンテンツそのものに大きな問題はありません。一方、Googleは「この企業は何者で、どのカテゴリーに属し、何と関係しているのか」を一貫したエンティティとして把握できていませんでした。そのため、Geminiも同社を安定して参照できなかったのです。ボトルネックはコンテンツではなく、AI上の可視性を支える基盤にありました。
- Geminiに「アジア太平洋地域のAPIモニタリングツールは?」と尋ねても、回答に挙がるのは欧米の大手数社だけで、クライアントは候補に入りませんでした。
- 「この会社は何をしている企業か」と尋ねると、Geminiは曖昧な説明を返し、名称の似た別企業と混同することさえありました。
- Googleでブランド名を検索しても、右側にナレッジパネルが表示されませんでした。Googleが同社を明確なエンティティとしてまだ認識していない状態です。
- 公式情報にもばらつきがありました。公式サイト、LinkedIn、Crunchbase、GitHubに掲載された会社説明が統一されておらず、設立年まで一致していませんでした。
実施した重要な施策は3つです
GEOの議論では「Wikipediaの記事を作ればよい」と語られがちですが、これは誤解です。Wikipediaには明確な特筆性の基準があります。信頼できる第三者報道がないまま記事を公開しても、削除されるだけでなく、編集履歴に好ましくない記録が残る可能性があります。正しい進め方は次のとおりです。
- 公式サイト、LinkedIn、Crunchbase、GitHubに掲載する会社名、所在地、設立年、本社情報を統一しました。さらにOrganizationの構造化データ(schema.org)にsameAsを設定し、各公式プロフィールが同一のエンティティを示すよう関連付けました。
- 第三者による裏付けを補強しました。業界メディアでの掲載、各種リストへの収載、著名なエンティティとの公的な関係性(連携パートナーなど)を獲得できるよう支援しました。これらはWikipediaで特筆性を示す材料になるだけでなく、ナレッジグラフにとっての信頼できる情報源にもなります。
- 根拠となる出典を付けてWikidata項目を作成し、条件が整ってからWikipediaへの掲載を進めました。WikidataはWikipediaより掲載のハードルが低く、Googleのナレッジグラフへ直接情報を供給するため、一般にWikipediaより早く効果が表れることがあります。
3つの施策に共通する目的は、Googleに推測させないことです。公式データ、第三者による報道、Wikidataが同じ名称と属性で同一のエンティティを示すと、ナレッジグラフには確度の高いノードが形成されます。その結果、Geminiが自社を見落としたり、別企業と取り違えたりする可能性を抑えられます。

90日後、Geminiからの引用はどう変わったか
Brand Radarを使い、カテゴリーに関する同じ質問を毎週Geminiで追跡しました。変化は一夜で起きたわけではありません。ナレッジグラフの更新に伴い、次のように段階的に表れました。
- 3〜4週目:Googleでブランド名を検索するとナレッジパネルが表示され始めました。Geminiによる会社説明でも、同名企業との混同が見られなくなりました。
- 6〜8週目:Wikidata項目が反映された後、「アジア太平洋地域のAPIモニタリングツール」などの一覧で、Geminiがクライアントに断続的に言及し始めました。
- 10〜12週目:引用は「たまに出る」状態から安定した状態へ移行しました。追跡対象のカテゴリー質問では、Geminiの回答の約3分の2に同社が含まれ、その多くに公式サイトまたはWikipediaへのリンクが付きました。
まずGoogleに「自社が何者か」を正しく認識させる。その土台があって初めて、Geminiも安心して引用できます。順序を逆にしても、成果にはつながりません。— Tenten GEO consultant team
まず自社で確認できる3つのポイント
- ブランド名でGoogle検索し、右側にナレッジパネルが表示されるか確認してください。表示されない場合、Googleが自社を明確なエンティティとしてまだ認識していない可能性があります。
- Wikidataで自社を検索し、項目の種類、公式サイト、関連リンクが正しいか確認してください。
- 公式サイト、LinkedIn、Crunchbaseの会社説明が一致しているか確認してください。情報に矛盾があれば、Geminiは信頼できるエンティティとして扱いにくくなります。
この施策が有効でないケース
率直に言えば、すべての企業に適した施策ではありません。創業から1年未満で、第三者による報道が一切ない場合、WikidataやWikipediaへの掲載を急いでも工数を浪費する可能性があります。その段階では、まず引用されやすいコンテンツとメディア上の実績を積み上げるべきです。一般消費者向けのB2Cブランドもロジックが異なります。企業の実在性はすでに明確で、課題は認知や感情的な評価にあることが多いためです。エンティティ強化が特に有効なのは、今回のように、実際の事業と一定の市場基盤があるにもかかわらず、AIエンジンから認識されていないB2B企業です。GeminiやGoogle AIに自社カテゴリーについて尋ねたとき、競合ばかりが並ぶのであれば、問題はコンテンツ量ではなく、エンティティの認識にあるかもしれません。自社のナレッジに何が欠け、どの順序で補うべきかを把握したい方には、30分間のGEO診断をご用意しています。実際に見込み顧客が使う質問をもとに、現時点でGeminiが自社をどう扱うかを確認します。



